βを算出する場合には以下の注意が必要です。

A:流動性が低い株式のβ

流動性の低い株式は、取引が存在しない時点での値動きが反映されないので、ボラティリティが過小評価され、βの過小評価につながる可能性が高くなります。加えて、取引が成立しない銘柄で一度取引が成立しますと価格が乱高下することもあります。これはボラティリティを高めることになりますが、これによって市場との相関関係が低下して、トータルではβを低くしてしまうことになります。一般的には流動性が低い方がリスクが高いと考えた方が良いことになります。取引者にとってすぐに現金化できないのはリスクであると直感的にもわかるでしょう。そのため流動性低い、βが低い、CAPMで導出した割引率が低い、リスクが低い、というのは直感的に正しくないことがわかるはずです。そのため出来高の低い銘柄のベータはなるべく類似企業のβとして用いないようにしましょう。

B:負債比率が高い企業のβ

アンレバードβは通常、負債のβがゼロという前提の下で算出されますが、これは企業がリスクフリー・レートで無制限に借り入れできることを理論的には示しています。企業の負債比率が適正な範囲内にあれば、デフォルトリスク(返済がされない)は無視できるくらいに小さなことから、この仮定には合理性があります。しかし負債利用度が適正な水準を超えて高まれば、デフォルトリスクや倒産リスクが急上昇して、借入利息も上昇します。しかし実務上用いられるアンレバードの算式では、そのようなリスクを織り込むことができません。そのため負債利用度が高い企業では、アンレバードβが本来の水準よりも過少に評価される恐れが高くなります。この場合にも、負債比率が高い、βが低い、CAPMで導出した割引率が低い、リスクが低い、というのは直感的に正しくないことがわかるはずです。そのため、負債利用度が極端に高い企業が類似会社に含まれている場合には、その企業のアンレバードβが過小評価されていないか慎重に検討する必要があります。

C:新興企業のβ

評価対象企業がベンチャーであれば、類似業種を新興市場の上場企業にする場合も多くなります。時価総額も小さめですし、なによりも新しい企業は新しいことをやっていますから、直近で上場した企業の方が行っている事業が近い場合もあります。加えて、新興市場の上場企業の方が多角化していない、つまり他の事業を行っていない可能性が高く、類似業種としても選びやすいのです。しかし、新興市場は流動性が低い、負債利率が極端に高い企業が多いため、注意が必要です。このため、評価対象企業の規模や事業内容が近いために新興上場企業のβを参考にするのが良いとも限りません。βについては、十分に流動性の高い大企業のβを参考にして、規模の違いには、サイズのリスクプレミアムを考慮して補正する方が良い場合もあります。